海の輪 Circle of the Sea
海の輪 circle of the sea
大西洋に浮かぶマデイラ島に住みはじめ10年。ここで私は日常的に海へ行きます。水中では、自分の体の輪郭があいまいになり、時間の概念から解放され、個体であることが不確かなものに感じられます。身体の実感が薄れると、あたかも、動作、視覚、思考だけが感覚の中に落ちていくような気持ちになります。海に潜る時、自分を取り囲むすべてのものに帰属しているという一体感を強く感じられます。
私たちは生まれる前、子宮内で水の中におり、そこでは保護された状態の人生を既に経験しています。食べることは何かを自分の一部にしたり、逆に自らが何かの一部になることでもあります。そして死ぬと、肉体も最後の貢献として大地に還り、そこに全体の一部として残ります。私たちは互いにつながりながら循環の中で、生きているのと同じように、命が終わると元来た場所に戻ります。
それなのに、なぜ孤立していると感じるのだろう。今、生きているということは、まさにこの瞬間、自らも世界の一部であるということなのに。
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ビデオドキュメンタリー
深海アートプロジェクト Deepsea Art Project 8分
ルラが見た深海の風景
ハナマロ & レビコフ・ニゲラー財団
ビデオリンク https://vimeo.com/1066993258?share=copy
このプロジェクトは、潜水艦操縦士として活躍してきた友人、ヨアヒムとキルステン・ヤコブセン夫妻が20年の潜水艦での仕事にピリオドを打つにあたり、海をテーマにした作品を海底に残したいという希望から始まりました。そして、これは彼らの深海の風景や深海生物の未知なる生態を数多く発見し、映像に記録してきた、長年にわたる活動へのオマージュでもあります。
私は、自分自身も海との関係に思いをはせながら、潜水艦の名前にちなんだ2つの小さなイカの彫刻「Lula」(ルラはポルトガル語でイカの意味)を制作しました。一体はマデイラ島、フンシャル湾、水深100メートル、もう一体は1000メートルの海底に設置されました。私の同行した-100mのルラは、椅子に座った状態でサンゴの間に置かれました。すると、たくさんの小さなカラフルな魚たちが近寄ってきて、その新しい訪問者を興味深そうに観察し始めました。それはまるで、互いに見つめ合っているかのような、不思議な光景でした。
人間が奇妙な生き物を見ようと海に潜るとき、実はそこでは人間こそが最も奇妙な生き物であるという、その皮肉な事実に気が付きました。
ヨアヒムの作った潜水艦LULA1000と同じ名前で同じ色の私の作ったルラは今でも海の中であの風景を見ているのだろう。